マーケティングにおける「STP」とは、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の略で、効果的なマーケティング戦略を立案するためのフレームワークです。各要素について詳しく説明します:
Segmentation(セグメンテーション)
市場を消費者の属性や行動、ニーズに基づいていくつかのセグメント(区分)に分けるプロセスです。年齢、性別、ライフスタイル、購買行動などの基準で顧客を分類し、異なるニーズを持つ各グループを明確にすることが目的です。
Targeting(ターゲティング)
セグメンテーションによって分けた市場の中から、最も有望で、利益が見込めるターゲット層を選定する段階です。企業は、自社の製品やサービスがどのターゲット層に最も適しているかを分析し、効果的なマーケティング活動を行います。
Positioning(ポジショニング)
選定したターゲット層に対して、自社の製品やサービスをどのように認識してもらうか、つまり「市場におけるポジション」を決定するプロセスです。競合との差別化を図り、顧客の心に自社ブランドの位置を明確にすることを目指します。例えば、品質重視、コストパフォーマンス、革新性などの特徴を強調することで、顧客の中で独自の価値を築きます。
STPは、ターゲット顧客のニーズに応じたマーケティング戦略を練り、リソースを効果的に配分するための基本的なプロセスです。

ファミレスを例にSTPを考える
日本における代表的なファミリーレストラン(以下、ファミレス)を例に、STP(Segmentation / Targeting / Positioning)分析を行い、最後に2軸マップによる位置づけを示します。
1. 前提:ファミレス市場の概観
-
幅広い客層
家族連れ、学生、社会人、高齢者など、年齢・性別を問わず利用される。 -
低価格・中価格帯での競合
低価格帯は学生・若年層や家族中心、中価格帯はファミリー層~シニア層まで広めにターゲット。 -
メニューの多様化
洋食系、和食系、中華系、イタリアン系など、多様なジャンルで展開。 -
店舗数・立地の多さ
ロードサイドや駅前、商業施設など多様な立地に出店し、日常的に利用されやすい。
2. Segmentation(セグメンテーション)
ここでは、主に以下のような切り口でセグメントを捉えます。
-
価格帯によるセグメント
- 低価格帯(例: Saizeriya, Joyfull など)
- 中価格帯(例: Gusto, Jonathan's, Denny's, Coco's など)
- 高価格帯(例: Royal Host など)
-
メニュー傾向(専門性 vs. 多様性)によるセグメント
- 比較的専門性が高い(例: Saizeriya〈イタリアン中心〉、Bamiyan〈中華中心〉、Big Boy〈ハンバーグ・ステーキ中心〉 など)
- 総合型・メニュー幅広め(例: Gusto, Jonathan's, Denny's, Royal Host, Coco's など)
-
利用シーン・利用者層
- ファミリーやグループ中心(座席が多く、キッズメニュー充実など)
- 個人やビジネス利用も多い(打ち合わせや休憩など、多様な時間帯の利用に対応)
3. Targeting(ターゲティング)
上記セグメントに対して、代表的なファミレス各社がどのターゲットを中心に狙っているかを簡潔に示します。
-
Saizeriya (S)
- ターゲット: 学生や若年層、低価格を重視する家族連れ
- 特徴: イタリアン中心のメニューを低価格で提供し、ドリンクバーなどで居座りやすい環境
-
Joyfull (JF)
- ターゲット: 地域密着型で、低価格重視のファミリー・シニア層
- 特徴: 全国展開はしているが九州地方を中心に店舗数が多く、比較的価格が安め
-
Gusto (G)
- ターゲット: 幅広い年代のファミリー・若年層
- 特徴: ドリンクバーや豊富なメニューを手頃な価格帯で提供。日本全国に広く展開
-
Jonathan's (JN)
- ターゲット: 郊外・ロードサイド中心で車利用のファミリーやビジネスパーソン
- 特徴: 豊富な和洋メニューを中価格帯で提供し、比較的落ち着いた雰囲気
-
Denny's (DY)
- ターゲット: 幅広い層だが、やや高めの価格帯を許容するファミリー・シニア層
- 特徴: 全時間帯で利用しやすい24時間営業店舗も多く、和洋幅広いメニュー
-
Coco's (CC)
- ターゲット: ファミリー・若年層・学生
- 特徴: 洋食メインでデザートなどにも力を入れており、店舗ごとに若干の地域色も
-
Bamiyan (BM)
- ターゲット: 中華料理を手軽に食べたいファミリー・グループ
- 特徴: 中華系メニューに特化しつつファミレスとしての居心地を提供
-
Big Boy (BB)
- ターゲット: ハンバーグ・ステーキなど肉料理を好む若年層、ファミリー層
- 特徴: サラダバーを併設するなどファミレス形態を取りつつも、肉料理中心
-
Royal Host (RH)
- ターゲット: ファミレスの中でもゆとりある価格帯を受容できる層、やや高所得ファミリー・シニア層
- 特徴: 高品質な食材とややプレミアムな雰囲気で差別化
4. Positioning(ポジショニング)
(1) 全体的なポジショニングの方向性
- 低価格路線: Saizeriya, Joyfull など
- 中価格路線: Gusto, Coco's, Jonathan's, Denny's, Big Boy, Bamiyan など
- 高価格路線: Royal Host など
- 専門性(料理ジャンル特化): Saizeriya(イタリアン), Bamiyan(中華), Big Boy(肉料理)など
- 多様性(総合メニュー): Gusto, Jonathan's, Denny's, Royal Host, Coco's など
(2) 簡易2軸マッピング
マッピングの例として、横軸を価格帯(低→高)、縦軸をメニューの専門性(特化→多様)とし、代表的なブランドを配置します。

左下(低価格+やや専門性アリ)
- S (Saizeriya): イタリアン特化、価格も低い
- JF (Joyfull): 地域密着型で低価格、メニューは一応総合型だが価格で見るとこちらに配置
中央~右寄り(中価格+多様or専門)
- G (Gusto), JN (Jonathan's), DY (Denny's), CC (Coco's): 総合メニューが豊富で中価格
- BM (Bamiyan): 中華にやや専門性が高いが価格帯は中ぐらい
- BB (Big Boy): 肉料理特化型だが、価格は中価格帯~少し高め
右上(高価格+多様)
- RH (Royal Host): ファミレスの中では高価格帯、メニューは幅広く質も高い
5. まとめ
-
Segmentation
- 価格帯(低~高)やメニュー(専門性~多様性)、利用シーン・ターゲット層(学生、ファミリー、シニアなど)といった複数の軸でファミレス市場はセグメント化できる。
-
Targeting
- SaizeriyaやJoyfullは低価格を求める若年層・ファミリーを、Royal Hostはプレミアム感を求める層を狙い、それぞれのブランドに応じてターゲットを選定している。
-
Positioning
- 低価格帯×専門性のSaizeriya、低価格帯×総合型のJoyfull、肉料理特化のBig Boyや中華系のBamiyanなど、特徴的なポジショニングを形成している。
- Gusto、Jonathan's、Denny's、Coco'sなどは中価格帯で総合メニューを持ち、幅広い客層をカバー。
- Royal Hostは比較的高価格帯に位置づけ、品質・サービスの面で差別化している。
このようにSTP分析と簡易マッピングを行うことで、各ファミレスの立ち位置や競合関係がわかりやすく整理できます。